はな劇場

地下1階。土壁に囲まれた、アップライトピアノとステージだけの場末パブ。Googleマップには載っていません。

【小説】今夜も独り飲み

【小説】今夜も独り飲み 三岳の章

その男は松葉杖をつきながら、たいそう不機嫌な顔で、よっこいしょとスツールに腰かけた。 「マスター、いつもの」 私は酒棚の三岳に手をかけながら、とりあえず心配しているふりをすることにした。 「山本さん、手術したばかりなんでしょう。大丈夫ですか、…

【小説】今夜も独り飲み ミモザの章

「マスター、こいつ、こう見えてもウエディングプランナーなんっすよ!」 「知ってるよ」 いつも仲良く二人組でやってくるT君とマサルは、すでにけっこういい気分で酔っ払っているようだった。童顔でちょっとばかり天然が入っているマサルは、常にいじられる…

【小説】今夜も独り飲み 十四代の章

「マスター、おはよ。いつもの、あるかな」 独り飲みする客の中でもいつも羽振りがいい藤野さんは、業界人みたいに夜でも「おはよう」とあいさつする。 「ありますよ」 私は彼のお気に入りの日本酒、十四代の一升瓶を冷蔵庫から取り出してカウンターに置いた…

【小説】今夜も独り飲み I.W.ハーパーの章

「ハーパー、ください。水割りで」 一人飲みする女性客の中でも、妙に色気があって男性客にも人気のヨーコさんはそう言って、スツールにどっさと腰を下ろした。もうすでにどこかで何杯か飲んできているようだ。 「かしこまりました」

【小説】今夜も独り飲み マタドールの章

「いつものテキーラですか?」 久しぶりに来店した常連女性客に微笑みかけて聞いた。 「いえ、今日はね、テキーラじゃなくて、マタドールを」 七十か八十か、年齢はよくわからないが、かなりお年を召している。にもかかわらず、いつもシャキッと背筋を伸ばし…